【ベニスに死す】そして【傷だらけの栄光】

昨日は、2本映画を観てしまった。1本目は午前9時からの放送で【ベニスに死す】、もう1本は午後からの放送で【傷だらけの栄光】。

体調悪くてベッドの中で観た。


【ベニスに死す】は、私にとっては何ちゅう事の無い、特に聴き入りもしないBGMのような映画で、ヴィスコンティの芸術性だの美意識だのと言っても、殆ど心に響いて来るものが無い。

まだ10代初めのビョルン・アンドレセンが美しい、美しいと当時大変な騒がれようであったけれど、私にはそれ程とは感じられなかった。薄っぺらいと言うか、中身が無い感じがして。
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しかし、その薄っぺらさこそがヴィスコンティの愛した美でもあるのだろう。若い頃のヘルムート・バーガーやアラン・ドロンにも通じる、美しいけれど何か本能的に男娼を思わせるような色気、小狡さ、育ちの悪い雰囲気といったものを感じる。あくまでも私個人の感想です。


それに比べて、美しいとは言い難いけれど、もっと有機的で男らしく感じた【個人教授】でのルノー・ヴェルレーの方が素敵だと私は思う。
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勿論、個々の魅力を比べるものではないし、このルノー・ヴェルレーにしても他の作品ではそんなに素敵と思えなくなっていたけれど。


それにしても、つくづくダーク・ボガードって、この【ベニスに死す】といいリリアナ・カヴァーニの【愛の嵐】といい、あるいは倒錯した、あるいは禁断の愛に囚われてどんどん底なし沼にはまっていく男、そして悲劇的に死ぬ男・・・というイメージが私の中では定着してしまっていて、哀れとしか言いようがない。

上っ面だけ調子の良い床屋の口車に乗って髪を黒く染められ、顔には白塗りされて口紅まで差され、オシャレしていそいそ出掛けてしまう自分の姿を鏡で見ているだろうに、少年の美しさを理解している芸術家の男が何故自分の姿を惨めと感じられないのだろう。初老の男が美少年に抱く恋心と、この男の根底にあるコンプレックスの成せる業なのか。

少年の姿を求めて街を彷徨いコレラに感染し、少年の無邪気に砂浜で遊ぶ姿を見つめながら死んでしまう哀れなラスト。


う~ん、どこがどう面白かったのか全く私には解らない。

役に立たないもの、無くても良いもの、それが芸術であり文化ですか?勿論そういう側面はあるだけうけど、この映画のどこに救いを見出せば良いのだろう?

他人が思う程この男の最期は不幸ではなく、むしろ恋しい少年を見つめながら死ねるのは幸せな事だったのだという事であろうか。

しかし、それではあまりにも不毛で虚しい。若さも美しさも、命さえも虚しいものだという事を教えてくれているのか?そんなもん、教わらずとも嫌という程思い知るのだ、凡人ですら。

金持ちの有閑階級の、暇過ぎるが故に陥りがちなインモラルな部分、魂の荒廃・・・それを見せて戴いただけというのが、私の正直な感想です。

私は社会主義者ではないし、耽美的である事も嫌いではないけれど、それだけでは元気も出ない、希望が持てない。

告白すると、私はヴィスコンティの作品で感動した事が一度もない。

どうせ孤独な魂が苦しむのであれば、苦しい時程ぐっと踏ん張って、もう少しマシな生き方をして下さいよ、特に男の人たち・・・と申し上げたい。

身も蓋もないですね、スミマセンでした。




もう1本の【傷だらけの栄光】は、以前にも「猫雑記」で書いた記憶がある。その時は確か、この映画のタイトルでもある”Somebody up there likes me.”という台詞について書いた。今日はまた別の事を書き留めておく。

改めてピア・アンジェリの可憐な美しさと、監督ロバート・ワイズのスピード感ある演出に感じ入った。

ブロボクサーとして躍進中のロッキー・ルジアーノが試合に勝って家に戻ると、生まれたばかりの赤ん坊は、眉の上に小さな絆創膏を貼ったパパの顔を見て泣き出す。赤ん坊を抱いた妻が「大丈夫、パパよ」と言ってあやす。

次の場面では、また別の試合に勝って帰宅したロッキーの顔に、絆創膏が1つ増えていて、また赤ん坊は泣く。そして妻が同じ事を言って赤ん坊をあやす。

そういう繰り返しが幾度かあり、次第に絆創膏の数が増えていく。遂には、お岩さんのような目をした夫の顔を見て、妻が泣き出すのだが、今度はすっかり大きくなった幼い娘が「ママ、大丈夫よ、パパよ」というような事を言う。

たったの1分かそこらのシーンでスピーディにこの繰り返しを見せて、年月の経過や次第に上位者と当たる事で勝利への道のりが険しくなっている事、そして子供の成長を描いている。これぞ映画的手法と言わずして、何と言おう。素晴らしい。

全体的に深みなど無い、単純な描き方をしているものの、ロッキー・ルジアーノというボクサーの弱さ、だらしなさ、昔はちょっぴりワルだったけれど根っからの悪ではない善良さや単純さ、女性に奥手で純情なところなど、若き日のポール・ニューマンの上手さと魅力に支えられて、とてもチャーミングな映画に仕上がっていると思う。

しかし、なんたってピア・アンジェリの魅力も大きい。
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清楚でもあり、質素で庶民的でありながら大変上品で魅力的な女優だと思うのだけれど、やがて時代の変化はこの女優を置き去りにしてしまう。
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声質や発声が子供っぽ過ぎるのはちょっぴり残念だけど、だからこそ感じさせる清純さではあるのかも知れない。とてもジェームス・ディーンやカーク・ダグラスらを篭絡した女性とは思えない位・・・いや、男性を魅了する魅力は充分なのですが。
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ピア・アンジェリは、たったの39歳で睡眠薬の過剰摂取で亡くなってしまった。勿体ない事です。


芸術的で耽美的と今尚称えられている【ベニスに死す】を見て「時間の無駄だった」と感じ、能天気で乱暴とも受け取られるかも知れないボクサーの伝記映画にこんなに感銘を受けるとは・・・映画ってやっぱり奥が深いと思う。

by kazue_gomajam | 2019-03-21 13:34 | 植物・自然など

たくさんの猫との暮らしや思い出、日々の雑感、食べる事などの日記です。


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